ゴミ屋敷問題を、単に物理的なゴミの山として捉えるのではなく、福祉の視点から見つめ直すと、その本質は全く異なる様相を呈してきます。福祉の世界において、ゴミ屋敷は「住環境が著しく悪化した状態」であると同時に、そこに住む人が「支援を必要としていることを示す、目に見えるSOSサイン」として定義されます。この定義の根幹にあるのが、「セルフネグレクト（自己放任）」という概念です。セルフネグレクトとは、生きる上で不可欠な、自分自身の世話をする意欲や能力を失ってしまう状態を指します。具体的には、食事をきちんと摂らない、入浴をしない、病気になっても病院に行かない、そして部屋の掃除やゴミ出しができない、といった行動として現れます。つまり、ゴミ屋敷は、セルフネグレクトという深刻な状態が、住環境の悪化という形で表面化した結果なのです。では、なぜ人はセルフネグレクトに陥ってしまうのでしょうか。その背景には、単一ではない、複合的な要因が存在します。配偶者との死別や失業といった「喪失体験」、うつ病などの「精神疾患」、身体の自由が利かなくなる「身体疾患」、そして近隣や社会との繋がりを失った「社会的孤立」、さらには「経済的困窮」。これらの問題が複雑に絡み合い、人を生きる気力の淵へと追い込んでいきます。このように、福祉の視点からゴミ屋敷を定義すると、必要な対策が自ずと見えてきます。それは、単にゴミを撤去することではありません。ゴミの山はあくまで結果であり、その原因となっている住人の心身の健康問題や、社会的孤立、経済的困窮といった根本的な課題にアプローチすることこそが、真の解決策となるのです。医療機関への接続、介護サービスの導入、金銭管理の支援、地域社会との繋がり作り。ゴミ屋敷というSOSサインを正しく受信し、その人を再び社会のセーフティネットの中に繋ぎ直していくこと。それこそが、福祉の現場で求められるゴミ屋敷対策の定義と言えるでしょう。