日本で深刻な社会問題となっている「ゴミ屋敷」。この現象は、海外、特に英語圏では「ホーディング(Hoarding)」という言葉で知られています。しかし、同じ「物を溜め込む家」を指していても、その言葉が持つニュアンスや、社会が問題を定義する際の視点には、文化や社会構造の違いが色濃く反映されています。海外、とりわけアメリカやヨーロッパにおける「ホーディング」問題の定義は、医学的・心理学的なアプローチが主流です。中心にあるのは「溜め込み症(Hoarding Disorder)」という精神疾患の概念です。メディアや公的機関がこの問題を取り上げる際も、個人の精神的な健康問題として捉え、セラピーやカウンセリング、サポートグループといった心理的支援の重要性が強調される傾向にあります。また、多数の動物を劣悪な環境で飼育してしまう「アニマルホーディング」も、ホーディングの一形態として深刻に受け止められ、動物虐待の観点からも厳しく定義されています。一方、日本の「ゴミ屋敷」という言葉の定義は、より多角的で、社会的な文脈が強いのが特徴です。もちろん、近年では「溜め込み症」という医学的な理解も広まってきましたが、それ以上に「社会的孤立」「高齢化」「セルフネグレクト(自己放任)」といった、福祉的なキーワードと結びつけて語られることが非常に多いのです。これは、日本の急速な高齢化と、核家族化による地域社会の繋がりが希薄化した社会背景を反映しています。また、集合住宅が多く、人口密度が高い日本の住環境では、個人の問題がすぐに「近隣への迷惑」として顕在化しやすいという特徴もあります。そのため、悪臭や害虫、火災のリスクといった、周辺環境への影響が、ゴミ屋敷を問題として定義する上で、海外以上に大きなウェイトを占めています。このように、ホーディングとゴミ屋敷は、現象としては似ていますが、その定義のされ方には、個人心理を重視する欧米と、社会関係や共同体の調和を重んじる日本の文化的な違いが見て取れます。それぞれの定義の違いを理解することは、より効果的な対策を考える上で重要な視点を与えてくれるでしょう。
海外ではどう定義する?ホーディングと日本のゴミ屋敷の違い