トイレの便器の中には、常に一定量の水が溜まっています。これは「封水」と呼ばれ、下水管から上がってくる悪臭や害虫が室内に侵入するのを防ぐ、いわば「水のフタ」の役割を果たしています。しかし、ある日この封水が通常よりも著しく減ってしまい、不快な臭いが漂ってくることがあります。これが「封水切れ」という現象です。タンクからは正常に水が流れるのに、なぜ便器の水だけがなくなってしまうのでしょうか。その謎には、いくつかの原因が隠されています。最も一般的な原因の一つが、排水管の「詰まり」です。トイレットペーパーを一度に大量に流したり、異物を落としてしまったりすると、排水管の奥で詰まりが発生します。この状態で水を流すと、詰まった箇所で水の流れが堰き止められ、一種のサイフォン現象のようなものが起こります。その力によって、便器内に溜まっているべき封水までが、排水管の奥へと一緒に吸い出されてしまうのです。この現象は「誘引現象」と呼ばれます。次に考えられるのが、単純な「蒸発」です。特に、長期間の旅行や出張で家を空けていると、その間に便器の封水は少しずつ蒸発していきます。夏場や空気が乾燥している時期は、一週間から二週間程度で封水がかなり減ってしまうこともあります。久しぶりに帰宅してトイレが臭う場合は、まずこの蒸発を疑うべきでしょう。また、意外な原因として「毛管現象」も挙げられます。便器のフチから水の中にトイレットペーパーの切れ端などが垂れ下がっていると、その紙が芯となって、便器の水を少しずつ吸い上げて排水管側へと流し続けてしまうのです。さらに、タンク内部品の不具合も原因となり得ます。タンクから便器へ封水を補給するための細い「補助水管」というチューブが、タンク内で外れていると、水を流した後に便器へ十分な水が供給されず、封水が不足してしまいます。このように、封水切れの原因は多岐にわたります。
便器の水位が低い封水切れの謎を解く