今や誰もが知る「ゴミ屋敷」という言葉。しかし、この言葉が現在のように、深刻な社会問題として定義されるようになったのは、比較的最近のことです。この言葉の定義は、時代と共に、社会の価値観や関心のあり方を反映しながら、大きく変化してきました。その変遷を辿ることは、私たちがこの問題にどう向き合っていくべきかを考える上で、重要な示唆を与えてくれます。ゴミ屋敷がメディアに登場し始めた1980年代から90年代にかけて、その定義は「変わり者が住む、異様な家」といったものでした。ワイドショーなどで面白おかしく、あるいは好奇の対象として取り上げられることが多く、あくまで個人の特異な生活習慣の問題として捉えられていました。そこには、社会全体で解決すべき問題であるという認識は希薄で、明確な社会的定義は存在していなかったと言えるでしょう。潮目が変わったのは2000年代以降です。メディアが繰り返しこの問題を取り上げる中で、その深刻な実態が広く知られるようになります。悪臭や害虫による近隣への健康被害、そして何より火災のリスク。これらの側面が強調されるにつれ、ゴミ屋敷の定義は、「個人の問題」から「地域社会の安全を脅かす社会問題」へと大きくシフトしました。この段階で、ゴミ屋敷は迷惑行為の一種として定義され、対策の主体も個人から行政へと移っていきます。そして2010年代に入ると、その定義はさらに深化します。法律(空家等対策特別措置法)や各自治体の条例が整備される一方で、その背景にある住人の困難さに目が向けられるようになりました。「セルフネグレクト(自己放任)」「溜め込み症」「社会的孤立」「認知症」。これらの福祉的・医学的なキーワードと共に語られることが増え、ゴミ屋敷は「支援を必要とする人々が発するSOSサイン」として、より多角的に定義されるようになったのです。このように、ゴミ屋敷の定義は、「個人の奇行」から「社会悪」、そして「支援対象」へと、社会の成熟と共に変化してきました。これからの私たちに求められるのは、これらの定義を統合し、法的・社会的・福祉的な全ての側面から、この複雑な問題に取り組んでいく姿勢なのです。
ゴミ屋敷という言葉の誕生!定義の変遷と社会の役割